大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和30年(ネ)99号 判決

控訴人(原告) 松原仙蔵

被控訴人(被告) 愛媛県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す、被控訴人が西条市下島山字里木谷乙三十一番地の二保安林九反一畝二十八歩に対して昭和二十二年七月二日愛媛県農地委員会が承認した買収計画に基いてなした買収は無効なることを確認する、被控訴人が昭和二十六年九月二十日控訴人に対し前記土地上の全立木を同年十月三十日までに収去すべき旨の収去命令は無効なることを確認する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人において原判決事実摘示中「送達交付」(原判決二枚目表二行目)とあるのを「送達」と訂正する。本件買収は昭和二十三年六月三十日付買収令書によつて行われたものであつて、控訴人は一応右令書を受取つたが誤謬訂正のため直ちに返戻したものであると陳述した外、原判決摘示事実と同一であるから茲にこれを引用する。

(証拠省略)

理由

成立に争のない乙第一、二号証、甲第四号証の二によれば、西条市農地委員会は控訴人主張の山林に対し昭和二十三年五月十五日未墾地買収計画を樹立、公告し、西条市役所において同月十七日以降同年六月五日まで計画書を縦覧に供したこと、被控訴人は右買収計画により、買収すべき農地の所有者を何れも松原覚十郎、農地の所在、地番、地目及び面積を、(一)愛媛県西条市大字下島山字西加納戸二千四百七十一番地、山林四反九畝二十五歩(二)同所二千四百七十三番地、山林四畝二十一歩、(三)同市同大字水谷乙三十一番地、山林一町七反八畝十二歩中買収すべき面積九反一畝二十八歩、買収の時期を同年七月二日とし、その他所定事項を記載した同年六月三十日付買収令書を作成したことが認められ、控訴人が同年十二月頃一応右令書を受取つたこと、前記買収計画は同年七月二日愛媛県農地委員会の承認を受けていることは控訴人の争はないところである。

控訴人は本件買収令書は既に買収済の(一)の山林、及び控訴人の所有に属せず他人の山林である(二)の山林をも同時に買収する旨記載した全く誤謬の令書であつて買収令書としての効力を有しないのみならず、控訴人は右令書を一応受領したが誤謬訂正のため直ちに返戻しているのであるから、適法な交付も存しない。被控訴人は昭和二十四年七月三十一日右買収令書を誤謬の儘公告しているもののようであるが、全然誤謬の買収令書を何等訂正することなく、ただ漫然と交付不能を理由として公告したからとて、それが交付に代るべき適法な公告ということはできないと主張し、本件買収令書に記載された(一)及び(二)の山林が控訴人主張の如きものであることは被控訴人の争はないところであるけれども、本件買収令書に斯の如き誤謬があつたとしても、(一)或は(二)の山林に対する買収令書として無効であるに止り本件山林の買収令書として効力に影響を及ぼさざるものと解するを相当とする。そして控訴人が昭和二十三年十二月頃右買収令書を一応受領したことは控訴人の自ら主張するところであつて、原、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は本件買収令書を受領後これを閲読し右令書の内容を了知したことが認められるから、仮令控訴人がその後直ちに前記の如き誤謬を訂正するため右買収令書を返戻したとしても本件山林に対する有効なる買収令書の適法な交付があつたものと認めるに差支ない。従つて成立に争のない乙第三、四号証の各一、二により認め得る被控訴人が昭和二十四年二月二十日までに買収令書を受領すべき旨控訴人に通知し、控訴人がこれに応ぜざるや交付不能を理由として県報に公告したことは無用な手続をなしたことに帰し、交付不能を理由としてなされた右手続の有効なりや無効なりやは既に適法になされた本件買収令書の交付の効力に関係なく、且つ被控訴人が交付不能を理由として斯の如き手続をとりたる事実は昭和二十三年十二月頃本件買収令書の適法なる交付ありたることを認定する妨げとなるものではない。

更に控訴人は本件買収は控訴人の先代訴外松原覚十郎を所有者としてなされているが、同訴外人は昭和二十一年四月二日隠居し、控訴人が家督相続の結果本件山林の所有権を取得したのであるから、本件買収は無権利者を対象としたもので無効であると主張するけれども、本件山林の登記簿上の所有名義人が控訴人先代松原覚十郎であることは当事者間に争がなく、本件買収令書は控訴人に送達交付せられたことは前記認定の如くであるのみならず、成立に争のない甲第四号証の一、同第五号証、原、当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば本件山林はもと訴外松原覚十郎の所有に属していたが同訴外人は昭和二十一年四月二日隠居し同訴外人の養子たる控訴人がその家督相続をなし本件山林の所有権を取得したところ控訴人はさきに昭和二十二年九月三十日付の被買収者及び所有者を松原覚十郎とする買収令書により前記(一)の山林を買収せられたが、その際右誤謬については異議を述べず本件買収令書についてもこれを西条市農地委員会に持参し誤謬訂正を申入れた際被買収者及び所有者の表示の誤謬ついては何等の異議を述べなかつたことを認め得る本件においては、買収令書の被買収者及び所有者の表示を誤つたという違法は、これによる買収を無効ならしめるものではない。

然らば本件買収令書に基き控訴人に対してなされた本件土地の買収処分は有効であつてこれが無効確認及びその無効なることを前提として被控訴人が控訴人に対してなした本件山林上の立木の収去命令の無効なることの確認を求める控訴人の本訴請求は何れも失当であつて棄却を免れず、これと同趣旨に出でた原判決は正当であつて本件控訴は棄却すべきものである。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 岩口守夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例